2011年6月22日水曜日

風が吹く瞬間 ②

受けて失敗するなら受けない方がいい。
受注生産において、失敗は顧客を逃すことになる。
まして自分の仕事と並行して先輩の代打を兼ねる
とダブルミスになる恐れもある。

先輩は瀕死(ミスによる精神的ダメージ)の状態。
日本で最高品質と言われる演出との闘いはこうして
始まった。

通常3ヶ月の準備を要するCM撮影。わずか4週間
の時間はそれだけで失敗の匂いがする。アンテナ
がピンと開き戦闘モードになった。

NO.NO.NO!何を提案してもNO!仲間たちが疲労
消耗していく。80%はNO! 100%を用意しろ。
100%は何か?演出は何も言わない。自分で考えろ!


ロケ地・出演者・日程・予算すべてが凍りつき、頭の
中は沸騰寸前。穴があくほどコンテを読み込みあら
ゆる情報を集めて写真を取り演出に提案するがNO!


会社から帰れない。終わらないから帰ることも眠る
事も出来ない。出口のない答えに見えた。
午前5時スタッフの定例会議をする。蒼ざめた顔で
降りましょうと進言される。

ある日、感じた。これは東京いや日本ではないな。

記憶と情報をすべて動員して、結論は1週間後の香
港九龍ロケと判断した。しかも渡航全員エコノミー。
出演者は単独でマネージャーなし。最小人数で20人
2泊3日。

1泊2日の代替のない強行ロケハンに向かう。
体感するアジアの匂いは、成功への確信になった。
演出が笑っている。確信は映像になった。

映像は日本のクリエーターの話題になった。
握手を求められ、大きな国際賞も頂いた。
しかし残念ながら初めての赤字作品。

香港上海銀行の屋上クラブで飲むビールは暖かい
南風の吹く中でキンキンに冷たかった。